我が国の企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に着手しないと、2025年以降、最大12兆円(1年あたり)の損失が発生する可能性があると経済産業省は「DXレポート」で発表しています。
本稿は、日本の企業を支える中小企業がDXを取り入れる理由と導入する際のポイントなどをお伝えします。
中小企業こそDXを取り入れるべき理由
我が国の企業数のうち中小企業数は99.7%を占めており、中小企業の与える影響は大きいです。
DXは上場企業や大企業など資本の充実した企業ばかりでなく中小企業こそDXを取り入れるべきです。
中小企業でDXを取り入れれば、2025年以降の損失額12兆円を減らす手がかりとなります。
そもそもDXとは
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、ITを強力に生かし新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して競争上の優位性を確率することをいいます。
DXにより社内データを見える化・共有し業務効率を上げ、よりよいサービスや商品を提供することがDXの目的です。
DX導入は少額の投資でも可能
DXは基幹システムや生産管理などの大掛かりな投資でなく、小さな金額からでも開始できます。
DXの取り組みは事例は後にご紹介しますが、人数の少ない中小企業でも開始できるのがDXのメリットです。
特にコロナの拡大に伴いリモートワークが普及し、ITを活用する機会はここ数年で増加しています。
コロナ収束後もDXは普及し国からの支援あり
コロナの収束後もDXは普及すると考えられ、2021年9月に発足したデジタル庁がデジタル社会形成の司令塔としてDXを推進を開始しています。
また経済産業省では「中小企業デジタル化応援隊事業」を2020年9月より開始しており、中小企業のテレワークやECなどの活用について助言や指導を行う体制を整えました。
大企業より組織が複雑でないメリット
中小企業の特徴に、大企業と比べて組織が複雑でないため小回りもきき、ITも導入しやすく効果を得るのも早いです。
少人数でも可能なIT化からとりかかり、小さく開始すると失敗も少なくなります。
DX導入に伴う法人課税面の支援
税制では法人課税面でDXの支援を行っており、財務省ではDX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制を2021年より創設しています。
DXに伴う税額控除(5%、3%)または特別償却(30%)ができる措置を創設(2年間の時限措置)しており、中小企業の資金面にもDX投資は有利です。
中小企業におけるDXの取り組み事例
ここでは2020年7月に独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「中小規模製造業の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)のための事例調査報告書」から中小企業におけるDXの取組み事例をご紹介します。
DX人材の調達および育成
会社の業務や技術に習熟した人材を再雇用し、ITを利用しペーパーレス化した事例。
ITを外注しても外注先は会社の技術に詳しくなく、また自社内にITに詳しい社員がいない場合は、社内にIT専門の担当を設置するのが導入の失敗も少なく有利です。
大手メーカーの早期退職者を採用するのも方法の一つで、中小企業にない技術を持つ人材も少なくありません。
生産活動の見える化
IT技術を使い生産活動を見える化し、他の社員と稼働や生産物、そして品質などの把握した事例。
中小企業では業務が属人化しやすく、他の社員からは担当業務が見えにくいという欠点があります。
また中小企業では技術をデータ化し共有できていない状況もあり、担当者の退職により技術が損なわれる可能性があります。
見える化の情報を活用し生産活動の改善
生産活動を見える化したデータを利用し、不良品の原因を調査・生産設備の故障予知に取り組んだ事例。
生産設備の稼働状況を帳簿で記録している場合、生産のデータを集計して活用することは困難です。
日々の設備の稼働データをITにより集計し見える化すれば、それらの情報を活用し生産活動を改善できます。
社内部門間での連携
社内の異なる部門間で見える化したデータを共有し連携を図り売上拡大につなげた事例。
社内の情報を見える化し一元管理すると、齟齬も少なく客観的な判断できるようになります。
IT技術を導入し部門間の連携につなげると社内での業務の一体感が生まれます。
他の製造業者との連携
自社の見える化したデータを他社と連携しサプライチェーンを実現した事例。
自社だけの事業展開には限界がありますが、サプライチェーンの構築よりさらに拡大する可能性もあります。
他社との連携にはデータの共有が必要で、ITの利用は有効な手段です。
見える化による製品への展開
生産活動を見える化した情報によりデジタル制御に移行した事例。
生産設備をデジタル制御に移行し、生産設備の自動制御や遠隔操作を可能になり、高品質な製品作りに繋げました。
中小企業のDXにおける課題とは?
中小企業には大企業と異なり独自の風土があり、それを認識せずにDXに取り組むとDX導入が進まない原因にもなります。
ここでは中小企業のDXにおける課題をご紹介しますので、事前に把握するとDX導入も滞らず業務の効率化に繋がります。
現状を変えることへの抵抗
生産現場では新しい取り組みに抵抗を持つ社員も少なからずいます。
全社員が一丸となりIT技術を導入するためには、現状をかえることに抵抗を持つ社員をどう説得するかが課題です。
生産現場での社員をよく理解し現場目線でDXに取り組む必要があります。
独自の職人文化
従来の仕事のやり方を変えたくなく、自分のこれまで培った職人気質で業務に取り組む文化がDXにおける課題となります。
この場合は、大きく仕事のやり方を変更するのではなく、できることから少しずつIT化を進めることが大切です。
現場第一主義での導入
IT化を進める際、現場の状況から乖離した施策を実施し導入に失敗する事例があります。
現場第一主義でDXを導入できるかが課題です。
現場の業務には、デジタル化すると非効率となるものもあるため、柔軟にIT化を進める必要があります。
中小企業でDXを導入する際のポイント
中小企業では会社の規模によりDX導入にも制約があるため、ポイントを押さえておくとDXの実施も効率がよいです。
ここでは中小企業でDXを導入する際のポイントをお伝えします。
費用対効果の検証
中小企業ではDX投資の先行きが見えにくく、経営者は投資効果に不安を感じることがあります。
そのため費用対効果を十分に検証し、まず小さなことから取り掛かることがDX導入のポイントです。
デジタル人材の確保
現場の知識があり、かつデジタル化に対応できる人材を確保できるかがDX導入のポイントです。
ITの知識がある人材は情報技術企業に集中しており、自社のノウハウを持つ外部業者はいないことが多く、DX導入が進まない可能性もあります。
自社でデジタル人材を確保できればIT技術面で不安を感じることもありません。
外部資源の活用
DX導入には専門家の助言も必要です。
人数の少ない中小企業では外部有職者の指導のもと、DXを進めるのがポイントです。
外部有職者には、中小企業診断士、ソフトウエアベンダーなどさまざまであり、DXに必要となる外部リソースを上手く利用します。
まとめ
本稿では、中小企業こそDXを取り入れるべきで、その理由と導入の際のポイントなどをお伝えしました。
中小企業には独自の課題もありますが、大企業と異なり小回りが効きDXを進めやすい特徴があります。
DX導入の事例をご紹介しましたが、小さいことからIT化に取組むとDXの導入もスムーズです。